現在行っている研究テーマ一覧

金属・無機ナノ粒子を用いた革新的ドラッグデリバリー技術の開発

 従来のナノ医薬品(ナノメディシンとも呼ばれます)は、生体親和性の高い成分で構成されたリポソーム(生体膜と同じ構成成分であるリン脂質から構成されているナノカプセル)やアルブミンナノ粒子(アルブミンは生体内の血清タンパク)がほとんどでしたが、最近金属や無機材料が従来のものにはない性質を持っていることから臨床試験が行われています(Tagami & Ozeki JPS 2017)。

 我々は、金ナノ粒子を用いたナノ医薬品のものづくりの研究を行ってきました。金ナノ粒子のアスペクト比を変えることで可視光よりも長波長の光(近赤外線)を吸収することができます。多数の突起を持った金ナノ粒子(金ナノスター)を作製することで近赤外レーザーのエネルギーを効率的に熱変換し、がんの光温熱療法に応用することができることを見出しました(Kondo et al., JDDST 2021)。さらに金ナノスターの表面には、血中滞留性を高めるためのポリマーと光線力学療法に応用可能な光増感剤を結合することで、がんを効率的に治療できる機能性金ナノ粒子を作製しました。また、加齢黄斑変性(眼の新生血管)を抑制するため、金ナノ粒子の表面にanti-VEGF抗体断片を結合したもの、機能性核酸であるsiRNAを表面に結合したもの(Takeuchi et al., JDDST 2017)を作製し、環状オリゴ糖であるシクロデキストリンを結合することで難水溶性薬物を搭載する工夫を行いました(Hashikawa et al., BPB 2018)。また、近赤外レーザーを照射すると、①レーザーのエネルギーを効率的に吸収・発熱しがんに対して光温熱効果をもつだけでなく、同時に粒子に搭載していた光増感剤による光線力学療法としての効果をあわせもつ機能性金属粒子として、突起形状をもつ金ナノ粒子(金ナノスター)に光増感剤とポリエチレングリコールを表面修飾したものを調製しました(Kondo et al., JDDST.2021)

2023年07月01日

刺激応答性リポソーム製剤を用いた各種トリガーリリース戦略

 薬物を効率的に送達する概念の一つにトリガーリリースがあります。これは、薬物を含有・結合している粒子に何らかの刺激(熱、超音波、光、pH、酵素反応など)を与え、がんなどの疾患部位に到達した粒子から薬物を放出することで、最大限の治療効果と最小限の副作用を得ることを目的とした戦略のことです。これまでに我々は、生体親和性の高いリン脂質から構成されている脂質ナノカプセルであるリポソームに焦点をあて、刺激応答性リポソームの開発を行ってきました。リポソーム膜に特殊なPEG系界面活性剤を含有させることで、熱刺激に応答してリポソーム膜表面の構造が変化し、リポソームから薬物を高濃度かつ大量に放出できるような温熱感受性リポソームの開発を行いました(Tagami et al., JPS 2015)。また、このリポソームは、がんに高発現しているリン脂質分解酵素(ホスホリパーゼA2、PLA2)に高感度に応答して薬物を放出する性質を持つことから、温度・酵素の2つの刺激に応答して薬物を放出できる刺激応答性のリポソームであることを報告しました(Tagami et al., IJP 2017)。

 光刺激応答性リポソームに関しては、光増感剤と抗がん剤をリポソーム内に共封入し、光(近赤外線レーザー)に応答して薬物を放出できるような、光刺激応答性リポソームを開発し、光線力学療法との併用を目指したリポソームを調製しました(Fuse et al., IJP 2018)。温熱感受性リポソームの周りをナノ構造の金膜で部分的に被覆することにより、近赤外レーザーを吸収して発熱することで薬物を放出できるような機能性リポソームの作製に成功しました(Koga et al., CS 2021。下図にコンセプト図(https://doi.org/10.1016/j.colsurfa.2021.127038)。

2022年04月26日

3Dプリンター錠剤・医薬品の製剤技術に関する研究

 3Dプリンティング技術(付加製造法、Additive manufacturingとも呼ばれる)は、フレキシビリティの高い製造技術として認識されており、現在様々な分野で使用されています。製薬分野では米国食品医薬品局が3Dプリンターで製造した錠剤を認可したことから、3Dプリンター錠剤・医薬品に対して大きな期待が寄せられており世界中で研究が展開されています。3Dプリンターを用いることにより、様々な投与量や形状・構造のものをオンデマンドで調製できることから、患者のニーズを満たす「オーダーメイド医薬品」として応用が期待されています。日本では我々の研究グループが3Dプリンター医薬品に関する研究を行ってきました。

 熱溶融積層方式(FDM方式)3Dプリンターを用いた検討では、抗酸化物質であるクルクミンを含侵させたポリマーフィラメントを用いて3Dプリンター錠剤を作製してプリンター条件が錠剤形成に与える影響と浮遊性錠剤の作製(Tagami et al., BPB 2017)、ポリマーフィラメントに含侵させる条件の検討(Tagami et al., BPB 2019)、2軸式のFDMを用いて薬物放出を自在に制御できる複合錠剤を提案しました(Tagami et al., IJP 2018)。また、ポリマー合成の企業との共同研究では、高純度のポリビニルアルコールフィラメントを用い、薬物放出を制御できるような特殊な形状の坐剤(座薬)の外殻(穴が空いた形状やマトリョーシカ型)を作製したり(Tagami et al., IJP 2019)、特殊な内部構造を持った中空坐剤の外殻を設計して、強度を高めたり複数の薬物を充填できることを報告しました(Tagami et al., 2021)

 半固形材料押し出し方式(PAM方式)の3Dバイオプリンターを用いた検討では、医薬品添加剤であるHPMCをベースをしたハイドロゲルに着目し、錠剤の作製と医薬品添加剤の影響を報告しました(Tagami et al., JPS)。口腔に適用するフィルム剤を作製するため、3Dプリントしたシート状のものを異なる乾燥方法で乾燥し、フィルム剤を評価しました(Tagami et al., BPB 2019)。また小児用てんかん患者のためのゼラチンを基剤とした様々な色や形状をしたグミ製剤の作製(Tagami et al., IJP 2021。下図。https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378517320311030)、がんの局所でナノ医薬品(リポソーム)を放出するパッチ剤(Liu et al., MD 2022)、白内障手術患者のコンプライアンス低下を防ぐため複数の点眼薬を組み合わせた眼科用パッチ剤を考案しました(Tagami et al., IJP 2022)。

 まだ検討例の少ない光造形方式(プロジェクター方式、DLP方式)の3Dプリンターを用いた検討では、基剤であるPEGDAなどの医薬品添加剤や水溶性の異なる3種の薬物の製剤組成が薬物放出に与える影響を調査しました。得られた薬物放出のデータから機械学習(重回帰分析、サポートベクトルマシン)を用いることにより、薬物放出挙動を予測モデルを構築しました(Tagami et al., IJP 2022)。

2022年04月26日

バイオシミラー(抗体医薬)の新規DDS医薬品に関する研究

 バイオシミラーは、バイオ医薬品(各種タンパク医薬品)の後続品ですが、我々は、先発品のバイオ医薬品のもつ課題点を改善したり、もしくは違う用途に応用できる可能性を探るために、DDS研究で用いられる基剤・キャリアとバイオシミラーを組み合わせた新規医薬品の開発を目指しています。抗体医薬品やタンパク医薬品の中には血中半減期が短いものが存在します。我々は、ラニビズマブバイオシミラーの短い眼内半減期を改善するため、生分解性徐放性のポリマー基剤(PLGA)を用い、バイオシミラー含有PLGAマイクロ粒子の調製を行いました。また、長期に渡って眼内においてバイオシミラーを放出しつづけるような一つのモデルを提案しました(Tanetsugu et al., BPB 2017)。別のアプローチとして、極小金ナノ粒子(5 nm)表面にバイオシミラーとポリエチレングリコールを結合させ、眼内においても比較的滞留性を持つことが期待される機能性ナノ粒子を調製しました(Hoshikawa et al., JDDST 2017。下図にコンセプト図。https://doi.org/10.1016/j.jddst.2017.01.004)。

2022年04月26日

研究機器紹介

2液混合型スプレーノズル搭載スプレードライヤー

スプレードライヤーのリーディングカンパニーとの共同研究によりナノコンポジット粒子をワンステップで作製することのできる特殊なスプレーノズルを開発しました。写真に写って頂いているのは後藤くんです(博士課程)。

2022年05月09日