3Dプリンター錠剤・医薬品の製剤技術に関する研究

 3Dプリンティング技術(付加製造法、Additive manufacturingとも呼ばれる)は、フレキシビリティの高い製造技術として認識されており、現在様々な分野で使用されています。製薬分野では米国食品医薬品局が3Dプリンターで製造した錠剤を認可したことから、3Dプリンター錠剤・医薬品に対して大きな期待が寄せられており世界中で研究が展開されています。3Dプリンターを用いることにより、様々な投与量や形状・構造のものをオンデマンドで調製できることから、患者のニーズを満たす「オーダーメイド医薬品」として応用が期待されています。日本では我々の研究グループが3Dプリンター医薬品に関する研究を行ってきました。

 熱溶融積層方式(FDM方式)3Dプリンターを用いた検討では、抗酸化物質であるクルクミンを含侵させたポリマーフィラメントを用いて3Dプリンター錠剤を作製してプリンター条件が錠剤形成に与える影響と浮遊性錠剤の作製(Tagami et al., BPB 2017)、ポリマーフィラメントに含侵させる条件の検討(Tagami et al., BPB 2019)、2軸式のFDMを用いて薬物放出を自在に制御できる複合錠剤を提案しました(Tagami et al., IJP 2018)。また、ポリマー合成の企業との共同研究では、高純度のポリビニルアルコールフィラメントを用い、薬物放出を制御できるような特殊な形状の坐剤(座薬)の外殻(穴が空いた形状やマトリョーシカ型)を作製したり(Tagami et al., IJP 2019)、特殊な内部構造を持った中空坐剤の外殻を設計して、強度を高めたり複数の薬物を充填できることを報告しました(Tagami et al., 2021)

 半固形材料押し出し方式(PAM方式)の3Dバイオプリンターを用いた検討では、医薬品添加剤であるHPMCをベースをしたハイドロゲルに着目し、錠剤の作製と医薬品添加剤の影響を報告しました(Tagami et al., JPS)。口腔に適用するフィルム剤を作製するため、3Dプリントしたシート状のものを異なる乾燥方法で乾燥し、フィルム剤を評価しました(Tagami et al., BPB 2019)。また小児用てんかん患者のためのゼラチンを基剤とした様々な色や形状をしたグミ製剤の作製(Tagami et al., IJP 2021。下図。https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0378517320311030)、がんの局所でナノ医薬品(リポソーム)を放出するパッチ剤(Liu et al., MD 2022)、白内障手術患者のコンプライアンス低下を防ぐため複数の点眼薬を組み合わせた眼科用パッチ剤を考案しました(Tagami et al., IJP 2022)。

 まだ検討例の少ない光造形方式(プロジェクター方式、DLP方式)の3Dプリンターを用いた検討では、基剤であるPEGDAなどの医薬品添加剤や水溶性の異なる3種の薬物の製剤組成が薬物放出に与える影響を調査しました。得られた薬物放出のデータから機械学習(重回帰分析、サポートベクトルマシン)を用いることにより、薬物放出挙動を予測モデルを構築しました(Tagami et al., IJP 2022)。

2022年04月26日