Archive (Previous research)


以前に行った研究内容について、紹介いたします。

2液混合型スプレーノズルを用いた骨再生に有効なDDSの開発
 スプレードライヤー企業との共同開発により、2液混合型スプレーノズルという特殊なスプレーノズルを用いてスプレードライすることで、難水溶性薬物ナノ粒子を含む水溶性マイクロ粒子(通称:ナノコンポジット粒子)をわずか単一工程で調製することに成功しました(下図)。医薬品候補化合物の70%は難水溶性であるといわれており、難水溶性薬物の溶出性・消化管吸収性を改善する方法の一つとして、薬物の微細化(ナノ化)が行われます。本方法を用いることで、ナノ粒子を調製するだけでなく、ナノ粒子をマイクロ粒子中に封じ込めることでナノ粒子の再凝集を防ぎ、粒子のハンドリング性を向上させることができます。ウコンの抽出成分であり多様な薬理効果を持つことで知られるクルクミンのナノコンポジット粒子の調製を行いました。クルクミンのもつ抗酸化作用や抗がん作用を利用して肺がんや炎症性肺疾患を治療することを目的とし、吸入剤に適したナノコンポジット粒子のスプレードライ条件を探索しました(Taki et al, IJP 2016)。また、従来の晶析法では結晶成長が早いためナノ化が難しい薬物(シンバスタチン)に対し、2液混合スプレーノズルを用いることで中にナノサイズの薬物粒子が分散したナノコンポジット粒子を作製することできました(Nishio et al., JDDST)。苦味マスキング技術の開発を目的として、苦味標準物質であるキニーネに対しポリマーをブレンドしたナノコンポジット粒子を調製し、特定のポリマーを選択したときに苦味が顕著にマスキングされることを報告しています(Taki et al, DDIP 2016)。抗結核活性を持った高水溶性薬物を高濃度にマクロファージ内(ねらいはマクロファージ内に寄生する結核菌を標的)に送達することができるようなナノコンポジット粒子を調製しました(Maeda et al., BPB 2019)。また、アルベカシンという院内肺炎に効果のある抗菌薬を用いたナノコンポジット粒子を作製しました(Yamamoto et al., BPB 2023)。
PLGA粒子を用いた骨再生に有効なDDSの開発
 シンバスタチンは、脂質異常症治療薬として広く知られていますが、近年骨再生効果があることが報告されており、ドラッグリポジショニングの化合物として注目されています。本プロジェクトは、ポリ乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)と呼ばれる生分解徐放性ポリマーを基材とした薬物含有粒子を用い、シンバスタチンの徐放が骨再生効果に与える影響について検討を行いました。その結果、シンバスタチン含有PLGAマイクロ粒子と骨セメントに包埋したものを骨欠損モデル動物に適用することにより、顕著な骨再生効果を示しました(Naito et al, IJP. 2014)。その一方で、PLGAナノ粒子を用いた場合、早い徐放とそれに伴うPLGA分解物が骨再生効果に負に影響する可能性が示唆されました(Terukina et al, JDDST. 2016)。本研究は、歯学部の先生方との共同研究によるものです。
葉酸7分岐修飾シクロデキストリンを用いたがんに対する超ターゲティング戦略
 がん細胞の細胞表面には、葉酸受容体が高発現することが知られています。本プロジェクトは、がん細胞に特異的に抗がん剤を送達することを目的に、7分子の葉酸を高密度表面修飾した環状オリゴ糖に抗がん剤を修飾した化合物(per-fol-β-CD-ss-DOX)を開発しました。per-fol-β-CD-ss-DOXは、葉酸受容体を介したエンドサイトーシスで細胞内に取り込まれた後、エンドソーム内で抗がん剤を放出し、最終的に作用部位である核内に到達することを狙ったものです。本化合物は、最適化を必要とするものでしたが、抗がん剤耐性のある癌細胞株に特異的に取り込まれて顕著な殺細胞効果を示しました(Mizusako et al, JPS. 2015)。本研究は、ベンチャー企業との共同研究によるものです。
X線照射が医薬品の品質特性に与える影響
 日本の医薬品錠剤の包装形態は、片面アルミPTP包装が主流ですが、海外においては、高温多湿な地域でも流通可能な両面アルミPTP包装が主流であり、グローバル化に伴い、両面アルミ包装の導入・増加が予想されています。本プロジェクトは、製造工程管理において、両面アルミPTP包装の内部を非破壊で検査することのできるX線透過検査装置が有効であると考え、装置の普及にあたり、X線が医薬品の品質特性に与えるかどうか検討を行いました。X線透過装置を数回スキャンしても薬物錠剤の含量や製剤試験結果に影響はなく、本方法は有用な検査であることを確認しました(Uehara et al, DDIP. 2015; Miyahara et al, JSPME. 2016)。本研究は、X線検査機器開発メーカーとの共同研究によるものです。
超短パルスレーザーを用いた難溶性薬物微細化技術の開発
 超短パルスレーザーであるフェムト秒レーザーは、産業分野において金属の微細加工に使用されてきました。本プロジェクトは、フェムト秒レーザーのレーザーアブレーションが有機物にも応用可能ではないかと考え、難水溶性薬物であるクルクミンを用い、クルクミンにフェムト秒レーザーを照射し、微細化できるかどうか検討しました。その結果、フェムト秒レーザーは、レーザーの照射条件を変更することにより、サブミクロンサイズの粒子に粉砕できました。フェムト秒レーザーはピコ秒レーザーやナノ秒レーザーと比較し、比較的熱エネルギーに変換されずに微細加工が可能であるため、本方法は、少量の難溶性医薬品候補化合物を微細化するような場合に有用であると考えられました(Tagami et al, IJP. 2014)。本研究は、レーザー装置開発メーカーとの共同研究によるものです。