名古屋市立大学大学院薬学研究科・薬学部English SAMPLE COMPANY
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脱アシル化活性に着目したSIRT6活性検出プローブの開発

生命活動は様々な遺伝子の働きによって行われています。遺伝子発現の調節は遺伝子配列に組込まれた調節の仕組み以外に、タンパク質やDNAの化学修飾によって調節を受ける仕組みがあり、このような遺伝子配列によらない遺伝子発現の調節をエピジェネティック制御による遺伝子調節いい、これに関する研究をエピジェネティクスといいます。
エピジェネティック制御を司る因子の1つにSIRTと呼ばれるタンパク質があります。SIRTは、タンパク質のアセチル化されたリシン残基の脱アセチル化を触媒する酵素の1種で、NAD+を補酵素として触媒活性を発揮します。基質となるタンパク質には、DNAの折りたたみ構造に関わるhistoneや、がん抑制タンパク質であるp53、微小管タンパク質であるtubulinなどが知られています。SIRTの発現や活性はさまざまな疾患で変化していることが知られ、創薬標的として注目されています。SIRTにはいくつかのisozymeがしられており、SIRT6はその1つです。SIRT6は、がん代謝にかかわることが報告されており、その活性を研究することは、がんの性質を詳しく解析することやそれを利用した治療法開発に役立ちます。

酵素化学の観点では、SIRT6は、脱アセチル化反応を触媒する以外に、脂肪酸の1種であるミリスチン酸が結合したミリストイル化リシン残基の脱ミリストイル化も触媒することが知られています。この活性を脱アシル化活性といいます。興味深いことにSIRT6は、脱アシル化活性の方が脱アセチル化活性よりも高いことが大きな特徴です。
私たちは、SIRT6の脱アシル化活性に興味をもち、SIRT6脱アシル化活性を検出する蛍光プローブ化合物の開発を行いました。これまでに知られていたSIRT活性検出プローブとは異なり、脱アシル化反応を効率よく1段階反応で検出できる化学反応の仕組みを実現するため、SIRT基質タンパク質の部分ペプチド配列をベースに、C末端に蛍光団を結合し、さらにミリストイル化リシンのミリストイル基の代わりに蛍光消光を起こす消光団Dabcyl基の誘導体を導入した化合物(SFP3)を設計し合成しました。この化合物をSIRT6タンパク質と試験管内で反応させると、驚くべきことに、ミリストイル基とは構造がかなり異なるDabcyl誘導体が結合しているにも関わらず、SIRT6がDabcyl誘導体の脱アシル化反応を行うことを発見しました。酵素反応によって消光団であるDabcyl基が分子から切り離されるため、蛍光団の蛍光が回復し明るい蛍光を発することも確認しました。
この化合物における様々な酵素化学的実験をさらに行った結果、この化合物はSIRT6の脱アシル化活性を鋭敏に検出できる蛍光プローブとして機能することが分かりました。また、SIRT1、2、3という他のisozymeの脱アシル化活性も検出可能であることを示しました。

一方、このDabcyl基を用いた蛍光プローブの開発戦略はSIRTの脱アシル化阻害剤の開発にも応用できることが分かりました。つまり、Dabcyl-PH基はSIRTによって素早く加水分解されるのに対し、Dabcyl-EH基はSIRTによって加水分解されず、酵素反応を阻害するという興味深い結果が得られたため、この知見を基にペプチド性のSIRT脱アシル化阻害剤の開発に成功しました。本成果は、SIRTの脱アシル化活性が関与する疾患の治療薬開発に繋がることが期待されます。

[発表論文]
ChemBioChem, 17, 1961-1967 (2016).
J. Med. Chem., 62 5434-5452 (2019).

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