名古屋市立大学大学院薬学研究科・薬学部English SAMPLE COMPANY
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ニトロベンゼンの光反応性を利用した光作動型NOドナーの開発



開発した光作動型NOドナーの化学構造
(代表的な1つについて示した)


開発した光作動型NOドナーの分子モデル

一酸化窒素(化学式NO)は、血管弛緩、神経伝達、免疫機構などに重要な役割を果たすことが知られています。一酸化窒素は体内で一酸化窒素合成酵素によって産生されています。

一酸化窒素を薬剤として用い、免疫性疾患の治療や、他の様々な疾患の治療法研究に利用できれば大変便利です。しかし、一酸化窒素はガス状物質のうえ不安定で、取り扱いにくい化合物です。そのため一酸化窒素そのものではなく、一酸化窒素を放出する化合物(NOドナー)がいろいろと開発されています。

現在までに開発された多くのNOドナーは、分子構造中に、一酸化窒素を容易に遊離するニトロソ基(R-NO)を持っています。このタイプのNOドナーのほとんどは分子が自然に分解するときにNOが発生する性質を利用したもので、発生量の制御は困難でした。

当研究室では、このような自然発生型のNOドナーとは異なり、一酸化窒素の放出を自由に制御できるNOドナーの開発を目指して研究を行いました。

私たちは、ニトロベンゼンが光や熱のエネルギーを吸収し、亜硝酸エステルになる反応に着目しました。光を吸収してこの反応を起こす化合物を設計し、光によりNOを遊離する光作動性NOドナーの開発に成功しました。これらの化合物は、培養がん細胞に応用すると、光に応じてNOによる殺細胞効果を発揮しました。

[発表論文]
J. Am. Chem.Soc., 127(33), 11720-11726 (2005).
Eur. Chem. J., 17, 4809-4813 (2011).
Bioorg. Med. Chem. Lett., 21, 2000-2002 (2011).
Bioorg. Med. Chem. Lett., 24, 5660-5662 (2014).
ACS Chem. Biol. 11, 1271-1278 (2016).


二光子励起を利用した
新しいタイプの光作動性NOドナー

ところで、ヒトを含めた生物組織は、紫外線を通しにくく、可視光から近赤外線領域の波長(700~900nm)を通しやすいことが知られています。一方で、私たちが開発したニトロベンゼンを利用した光作動性NOドナーは、紫外線領域(UVA領域)の波長の光でNOを効率よく放出する性質を持っています。このため、このままでは、組織の内部で、この光作動性NOドナーを働かせることは難しくなります。そこで、もっと長波長の光でNOを放出する化合物の開発に取り組みました。

ニトロベンゼンから光によってNOを放出させる仕組みはそのまま利用し、長波長のレーザー光によって、二光子励起を起こしてNOを放出する化合物を設計しました。二光子励起とは、エネルギーが低い2個の光子を同時に吸収することで、エネルギーが高い1個の光子を吸収したときと同じエネルギーを分子に与える現象です。普通の光では、量子化学の教科書にあるように、1つの励起現象は1個の光子(電磁波)の吸収に対応しますが、光子密度が充分高い光(パルスレーザーなど)では、二光子が同時に吸収される現象が知られています。

私たちは、二光子励起が起こるように工夫したニトロベンゼン誘導体を合成しました。実際にパルスレーザーを照射すると、720nmというこれまでの2倍の波長の光によってNOが放出される新しい光作動性NOドナーの開発に成功しました。

[発表論文]
J. Am. Chem. Soc., 131, 7488-7489 (2009).
ACS Chem. Biol., 8, 2493-2500 (2013).
Bioorg. Med. Chem. Lett., 25, 3172-3175 (2015).

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