評価レポート

<平成23年度 評価レポート>
      平成23年度「専門的看護師・薬剤師等医療人材養成事業」チーム医療に貢献する薬局薬剤師の養成
        ~第1期 学内評価委員会報告書~

1.はじめに

本プログラムは、薬学部が中心となって、医学部、看護学部、附属病院の支援の下に、愛知県内で在勤の薬局薬剤師を対象として、チーム医療の担い手として貢献できる高い臨床能力を育成することを目的として実施される新しい薬局薬剤師研修コースである。

処方せん調剤や在宅療養指導、健康相談などを通じて地域医療に貢献することを求められながら、病院薬剤師と異なって必ずしも充分にチーム医療を担うための研修の機会がなかった薬局薬剤師に的を絞って、本学医療系学部、附属病院で培ってきた医療研修プログラムを基礎にして、薬剤師の実践的な臨床能力さらには医師や看護師とチーム医療を円滑に進めるための学術能力の育成を目指して、本格的な1年間の研修コースを薬局薬剤師に提供する点が本プログラムの特色である。また、本研修コースでは、講義形式は必要最低限として大学の教材や施設を利用した実習や演習タイプの研修を主にしていることも大きな特徴である。6年制薬学部で実施しているPBLを本研修コースでも多く採り入れている。

本研修コースでは、研修を以下の3つの領域に分け、その位置付けを明確にしている。
<領域1>医療技術や試技の修得(医学領域)、<領域2>コミュニケーションや臨床心理、介護技術の修得(看護領域)、<領域3>薬物療法の知識や技術、臨床に必要な学術能力の修得(薬学領域)

本年度は12月からの実施ということもあり、愛知県薬剤師会の協力のもと、愛知県内で指導的立場にある薬局薬剤師29名に参加いただき、大学で企画した11回の研修(うち<領域1>5回、<領域2>3回、<領域3>3回)と1回のシンポジウム、1回の地域医療見学会を来年度以降の本格的な研修コース設置に向けたトライアル的な位置付けで受講いただいた。急な募集で、受講された薬剤師の方達にはすでに多くの行事予定が決まっていた状況にも関わらずほとんどの研修で予定した受講人数の8割以上の出席をいただいた。受講された薬剤師からは、大学で企画した研修が実際の薬局業務にどれほど貢献できるか、新しい薬局業務の開拓に有用かどうかについて厳しい評価をお願いした。

受講生からの評価はかなり好評で、特に実習・演習での研修は、座学では得られない多くの「気づき」があったことがアンケートから示唆される。また、新しく本研修で学んだ試技を実際の薬局業務に活用する事例も報告された。

2.本年度研修コースの状況報告

各研修の受講人数ならびにアンケート評価、感想は別記の資料にまとめた。各研修の実施状況は

<領域1>

無菌操作
薬学部模擬薬局にて実施。薬学部事前学習で学生に行う実習をアレンジして実施した。薬局薬剤師はほとんど注射薬や点滴薬を取り扱うことがないが、今後在宅での対応が必要になることを前提に実習が行われた。実際のクリーンベンチや実物の注射・点滴器具の取扱い、ポンプの取扱いなども専門家の指導を受け、修得度もかなり高かった。
薬局で使用できる測定機器の使用法とその活用
すでに薬局で測定が行われている血圧や血糖測定などに加え、診療所などで取り入れられてきたHbA1cや血中脂質測定、PT-INR測定などの簡易測定機を薬局でのセルフチェックに利用できないかという実習を実施。薬局でのフィジカルアセスメントにこれらの測定データが加わることは薬局での服薬指導や健康相談に大きく役立つという意見が多い中、血液を扱う危険性や忙しい店頭で実際にきちんとした測定が可能かというような課題も多く出された。
フィジカルアセスメントとBLS
附属病院のシミュレーションセンターの施設や教材を利用し、附属病院医師による聴診器や血圧計の取扱いと基本的BLSの実習を行った。この実習は来年度以降医学部学生に実施する実習や演習を薬剤師教育に活用して行く研修の第1回ということで、盛りだくさんの内容を行って受講した薬剤師の意見や感想を聞くことを主眼とした。実習は好評であった。特に医師と意見交換ができる場の設定がチーム医療の進める上で大いに勉強になるとの感想が多かった。一方 もう少し体系的に教えて欲しい、テキストを用意して欲しいなどの課題も提言されたので来年度以降の実習に活かしていく予定。
呼吸困難患者の観察と対応
看護学部の講師による呼吸困難の基礎知識と対処法についてロールプレイの演習を行った。パルスオキシメータの活用法についても演習を行い、薬局でもパルスオキシメータは常備すべきではないかとの意見が多く出された。また、看護師の患者への対応の仕方は、同じように診断のできない薬剤師の対応の仕方に大変役立つとの感想があり、看護師の考え方を講師と討論する中で、薬剤師が、呼吸困難の患者だけでなく、患者にどう対応するのか、緊急時に落ちつて処置するにはどうしたら良いかなどが深く論議され大変有効であった。

来年度は看護師の対応をさらに深く学んで薬局薬剤師業務に活かして行けるような研修を準備する。

<領域2>

臨床心理学演習
3回のシリーズで病院に勤務する臨床心理士を講師に迎えて、薬剤師の患者に対応する際の技能向上をめざす実習を行った。オウム返しや傾聴など基本的なコミュニケーション技術から、リフレーミングなどの心理学的な考え方をとりいれたロールプレイなどを行い。患者とのラポールの形成はどうしたら可能になるかをSGDしていった。他職種からの意見や指摘は多くの「気づき」があったことが報告されている。また臨床心理士の方にも薬剤師の考え方は新鮮であったようである。来年度は、この演習を踏まえて、いくつかの実践的な研修を領域2で行っていく予定。

<領域3>

症候学演習
医師が講師となり、薬局店頭で「お腹がいたい」「熱がある」などの相談があった際にどのように考えるかを少人数6名によるSGDで実施。薬剤師は「病気」に対する知識が少なく、医師がどのようにその症状をとらえるのか大変参考になったとの感想が多かった。今後、この演習を踏まえてさらに「病気」と「薬物療法」についての科学的な検討を行う演習を用意する必要があると考える。
学術論文の読み方と統計の考え方
薬局現場で働く薬剤師にはほとんど医学論文などの学術的な活動は馴染みがないが、今後医師や看護師、病院の薬剤師との連携を取っていくためにはEBMの訓練が必要で、6年制薬学部学生が薬局現場で業務する今後を考慮し、薬局薬剤師に本格的な臨床研究に対応する演習を実施した。臨床研修では不可欠な統計に対する講義を行ったあと、論文を講師が用意をして、その読解と発表の演習を行った。英語の論文などハードルは高かったように思われるが、受講生は果敢に挑戦して、発表のレベルも充分大学でのセミナーに対応できるレベルになっていた。今まで論文や学術発表に関心のなかった薬剤師も、現場での論文の読解の重要性や学術発表の有用性について理解いただいと思う。すぐに薬局業務に役立つ演習ではないかもしれないが、学術能力の向上は今後の薬局薬剤師の職能拡大には重要な課題であることを認識できた。

特別シンポジウム

愛知県薬剤師会と共催で「6年制薬学部新時代に向けて」というテーマでシンポジウムを開催。150名ほどの参加者があった。全国から4名の先駆的な活動をしている薬局薬剤師を講師に報告をお願いするとともに、後半では今後の薬局薬剤師の新しい職能拡大についてパネルディスカッションを行った。

薬局で具体的なEBMを実施している事例報告、地域薬剤師会で連携して新しい薬剤師活動を行っている報告、処方せん調剤に偏重している今の薬局薬剤師の0次診療(プライマリ・ケア)への積極的貢献の必要性の報告、薬局店頭で実際にHbA1cを測定して相談に活かしている事例報告などのあと、薬剤師自身がもっと社会のニーズを捉えて積極的に医療に貢献していくことが今は最も必要なことであるという提言がパネラーや会場からの意見も踏まえて大いに議論され、来年度以降の本研修にも参考になる意見が多かった。

3.来年度以降の本事業への提言

1)より薬局薬剤師の業務に貢献する研修の実施

本年度行った実習はすべて高い評価であったが、医学部や看護学部、附属病院の講師による研修は、もっと回数を増やして欲しい、系統的な知識の講義と実習を組み合わせて欲しい、時間配分をもう少し工夫して欲しいなどの要望が出されたので、それらの要望に対応できるよう来年度の研修を企画・実施すべきである。

また、内容についても、薬剤師本来の「薬物治療」に力点を置いた形での研修をもう少しきちんと採り入れた方が、より薬局業務への貢献度の大きいと考えられる。

2)研修の時間についての対応

他の薬剤師研修が多くの場所で実施されているが、薬局業務に影響の無い時間帯は休日か土曜午後あるいは夜間に限られているため、受講回数の多い本研修と他の研修や会議などが重なってしまい参加しにくいという課題に対し、来年度はなるべく早く研修予定を確定させて提示することとともに、日曜日の午前・午後を同時に使うなど集中的な研修をすることなども配慮が必要と考えられる。また土曜日の研修は13時からでは業務が終わらず参加が難しいとの意見から、来年度は土曜日は15時~19時での実施が望ましい。

3)研修場所について

薬学部が現在校舎建替え工事中で自動車の駐車スペースが少なく、受講生に不便である。附属病院、医学部、看護学部は交通アクセスもよく、駐車場も完備しているので、来年度からは、そちらの施設での研修を増やすことが望ましい。

以上 受講生からの評価を踏まえて提言する。

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