評価レポート

<平成24年度 評価レポート>
      平成23年度「専門的看護師・薬剤師等医療人材養成事業」チーム医療に貢献する薬局薬剤師の養成
        ~第2期(平成24年度)評価員会報告書~

1.本年度研修の概況

本プログラムは平成23年度文部科学省「専門的看護師・薬剤師等医療人養成事業」として採択され、2年目を迎えた。第1期(平成23年度)では、研修は12月から3月までの4ヶ月に限定して実施されたため、第2期である本年度が当初の予定であった1年間の研修を通年で行なう初めての年となった。

昨年度3月ならびに本年度4月に行った薬剤師臨床研修委員会、運営・カリキュラム小委員会での検討から年間の研修内容を決定した。

愛知県薬剤師会の協力のもと、認定実務実習指導薬剤師を中心に受講生を4月に募集したところ40名の受講予定人数に50名の申込があり、本年度は50名での年間研修コースを開始した。7月の実習からは辞退者1名あり、通年では49名の受講となった。年間の各研修での参加者数は、年間のべ受講者数は651名であり、平均出席率は約60%であった。月に平均2回以上1回4時間の研修を受講することは、現場で働く薬局薬剤師にとっては大変な負担であると考えられるが、根気よく継続いただき、小グループでの討論でも時間が足りない程積極的に話合いを行っていただいたことは薬局薬剤師の地域医療に貢献しようという前向きな気持ちの現れであり、実際の薬局業務に役立ったという成果報告書も30報を数えたことは大きな成果である。

本年度から年間の研修で28単位(2時間の研修を1単位)以上研修受講された受講生には本研修コースの修了証明書を発行することとしたが、本年度49名の受講生のうち25名に修了証明書を授与した。この修了証明書の発行は、本学での「チーム医療に貢献する薬局薬剤師研修」を規定時間修了した証明として継続して発行し、薬剤師生涯研鑽の記録としてだけでなく、本学でさらに新しい研修を受けて頂く際のパスポートとして活用していく予定である。

主に医学部・附属病院が担当した<領域1>研修は、附属病院の臨床シミュレーションセンターを会場に6回の研修を実施し、看護学部が担当した<領域2>研修は臨床シミュレーションセンターと看護学部実習施設を会場に6回実施、薬学部が担当した<領域3>研修は薬学部実習棟ならびに水野ホール、宮田専治記念ホールを会場に12回の研修を実施した。

本事業についての詳しい組織や内容、本年度の研修での受講者からのアンケート評価等については ホームページ http://www.phar.nagoya-cu.ac.jp/ph-gp/ に掲載し順次更新している。ホームページでは受講生専用サイトを設け、受講生が各研修の資料や報告書のひな型、ワークショップでのプロダクツ等の取得も可能となっている。

2.本年度研修コースの状況報告

各研修における受講生のアンケート評価や意見・感想は別記資料にまとめた。(さらに詳しい意見・感想はホームページを参照)

ほぼすべての研修で、テーマ・内容・講師・教材・修得度・業務への有効性について平均で4段階評価の3以上の高い評価を得た。一部の研修で 業務への有効性等にやや低い評価も見られるが、それらは今後の研修に活かしていく必要がある。

各研修の具体的な効果と評価は以下の通りである。

<領域1>

チーム医療のためのフィジカルアセスメント
附属病院の医師を講師に行った本研修は、医学部の学生に行う研修を基に組み立てられたものである。医師になる者が身に付けるべき基本的な医療技能や指導の基礎を薬剤師が学ぶことで、医師の考え方や診察の意味を理解することを目標として実施された。附属病院臨床シミュレーションセンターの教材を活用し神経系や循環器、消化器などの専門医師による実際の器具等を用いた研修は、薬局薬剤師にはほとんど学ぶ機会のない研修であり、医師の診察の手順や基本が理解できたことでより薬局での服薬指導に深みや共感を加えられるとの評価と、医師と薬剤師が医療について少人数で話し合う大変貴重な時間として薬剤師だけでなく医師にもとても好評であった。チーム医療の第1歩はお互いをよく知ることであることが良く判った研修であった。模擬患者として参加した医学部の学生と薬剤師との交流も生まれ、講師として登壇した附属病院管理栄養士、名古屋消防局救急救命士、地域医療を支える医師等の研修は、薬剤師の医療に対する姿勢そのものを考えさせる機会となり、地域医療を推進するのに多職種での本研修会が如何に有効であるかも示唆された。
在宅に必要な点滴・注射器具の基礎知識と無菌操作
在宅医療を支えるために薬局薬剤師にも必須な技術となってきた点滴・注射薬の操作であるが、器具や薬品に直接触れることも初めてな薬剤師も多く、この研修で基本的な操作法を修得するとともに、自分達が調製した薬品をシミュレータにより実際に注射や点滴として投与する実習は、ただ薬品を調製するだけでなくその投与法の注意点も学ぶことができた。実際に薬剤師が注射や点滴を行うことは現在は無いが、チーム医療の中でその投与について器具類や手技について共通な認識をもってあたれば、医療安全にも大きく貢献すると考えられる。

<領域2>

多くの看護学部教員の分担で実施された本領域の研修は、いままで看護師との接点が少なかった薬局薬剤師にはとても貴重で発見の多い研修であり、本年度の研修コースの中では際立って評価が高かったといえる。看護師の視点で医療や介護を考えることの新鮮さと重要性を受講生は強く感じていた。また、普段交流のほとんど無い看護学部教員と薬剤師の研修での意見交換は、今後のチーム医療への発展も期待される場となった。

高齢者の特徴と対応
臨床シミュレーションセンターと看護学部実習室を利用し、看護学部での高齢者体験の授業を薬剤師向けにアレンジして実施された本研修では、体験型の実習の重要性と、日頃服薬指導しているだけでは気付かない高齢者への対応注意点を発見でき、高い評価を得た。薬学部の学習でもこのタイプの研修を採り入れていくことが必要であろう。また研修で講義された認知症への看護学部的取組の紹介は今後の薬剤師が取り組むべき認知症への対応に大いに参考になる内容であった。
精神疾患患者の特徴と対応
精神疾患の専門看護師による講義は、薬学領域では学ぶことのない内容を豊富に含み、薬剤師に大変参考になった。また看護学部大学院生によるいろいろなタイプの模擬患者でのロールプレイは、ロールプレイをしながら講師と受講生が一緒に考え、模擬患者にも心境を確認するなど、高いレベルの演習となっていて、今後薬剤師研修で採り入れるべき多くの要素を示唆していた。
日常生活行動の観察と対応
日常生活での運動機能低下によるQOLの低下への対応は、今後の薬局薬剤師にとって重要な技術になり、それを患者や来局者に指導できるレベルまで修得する必要性を受講生は強く感じた。バリアフリーの施設だけでなく、それを実際の器具で体験することは大変有用であり、体験型の研修ならではの気付きが多かった研修である。
呼吸困難患者の観察と対応
昨年度行った研修をさらに改良して実施された本研修は、パルスオキシメーターという薬局薬剤師にも測定が容易な器材をとりあげて、実際の患者への対応をロールプレイでの症例検討という参加しやすく理解しやすい研修として評価が高かった。今後薬局薬剤師が店頭での対応の幅を広げていくのに活用が期待される研修である。
薬剤師のための臨床心理学演習
昨年度に引き続き臨床心理士による心理学演習。患者や来局者の立場にたち、さらの服薬指導を一歩進めた患者教育やカウンセリングを薬剤師が実施できることを目標にして組み立てられた研修である。ロールプレイや代表による発表を少人数でSGDすることで情報や考えを広げ共有する学習方法が好評であった。ただ、2回では研修内容に限りがあり、今後さらにシリーズ化した研修が必要と思われる。

<領域3>

薬学部が担当した本領域の研修は、最新薬物療法の知識習得も目標であるが、薬剤師特に薬局薬剤師がチーム医療の中で科学的な分析データを共有して安全で適正な医療を推進するために必要な学術的能力を伸ばすことを大きな目標に掲げて、論文や学術発表に具体的につながるような活動を促し、薬剤師活動自体を科学的分析しその評価を行うことに成果も見られた。

臨床研究ワークショップ
昨年度の研修で行なった生物統計などの研修に引き続き、研究とは何か、論文の読み方などの基本的な講義から、実際に薬局で実施できる研究を計画し、それを薬局で試行することを目標に最初から薬学部教員が少人数のグループにチューターとして入ってワークショップを行った。ジェネリック、服薬指導などの業務に直結した課題、学校薬剤師などの地域活動に焦点をあてたもの、本研修を活用して店頭でのHbA1cの測定や在宅でのフィジカルアセスメントを行って新しい薬局機能の評価を分析したものなど、1月に実施された発表会では11名が発表を行った。3月のワークショップでは、来年度さらにこの活動を進展させ地域の薬局が連携して実施する研究課題の話合いを行い、いくつかの具体的で実施可能な研究テーマ候補が出され、次年度につながる成果を提示することができた。
薬剤師・科学者に必要な倫理
普段薬剤師が学習することの少ない倫理についての研修を本年度企画・実施した。医療人として科学者として身に付けるべき倫理については、薬剤師生涯研鑽の目標に掲げられながらも自習や座学での学習がほとんどで、今回のような演習タイプでの研修は新しい試みである。日頃の自分達の活動についてあらためて考え直す良い機会になっており好評であったが、馴染みの薄い研修テーマに戸惑いもあり、時間も限られていたこともあり次年度にはその反省も活かした研修が待たれる。
臨床研究に必要なアンケートの基礎知識
薬局で行なう臨床研究では、アンケート調査が最も一般的と考えられるが、体系的にその作製法や注意点、分析法を学ぶ機会は少ない。本研修では専門講師により、講義だけでなく具体的なアンケート作製を通して実務的な内容を修得することができ、参加者は他の行事と重なったため残念ながら少なかったが、受講生からは大変高い評価であった。来年度以降に強化すべき研修と考えられる。
水分と栄養補給に必要な知識と技術
領域2の注射・点滴薬の研修に関連する研修であるが、輸液ポンプや、シリンジポンプなども実物を使って研修を行い、在宅で活用できるベッドサイドで必要な手技も合わせて修得できた。輸液や水分補給についての基本的知識は6年制薬学部では授業で学ぶ内容であるが、その基礎知識の確認も含め今後の薬局薬剤師に必要な領域の研修として好評であった。
最新薬物療法を学ぶ
2名の外部講師、2名の附属病院内部講師による2日間連続の講義による研修は、薬局薬剤師が現場で遭遇する課題に具体的に対応することができる内容を選択して実施した。受講生は長時間の集中講義にも関わらず、熱心に受講し、評価も良かった。特に現場で実際に診察をする医師からの症候学の講義は、その後それを持ち帰った受講生から各薬局に伝達され薬剤師教育に役に立ったとの報告もあった。
薬物動態の基礎と応用
薬局薬剤師が薬力学、薬物動態学を現場で活用することを長年推進している著名な講師を迎えての研修。講義だけでなく、実例を使った少人数による演習形式での研修は、レベルが高く難しかったとの評価もある中、薬学部教員チューターの指導もあって、修得できた達成感は多くの受講生から聞かれた。今後薬局店頭でもこの領域の活用ができることを示唆する感想も多かった。
個人差・オーダーメイド医療演習
最近医薬品の添付文書にも記載が多くなった遺伝情報と薬物代謝の情報については、薬局薬剤師はほとんど学んだことのない領域である。今回、実際に店頭でも実施できる薬物代謝酵素の遺伝子診断を有志に体験していただき、それを受けて、遺伝子解析、薬物代謝酵素など遺伝による個人差、人種差などについての基礎知識を薬学部の研究者から講義を受けるとともに、今後薬局店頭でも課題になりそうな具体的事例を挙げ、その対応方法についてSGDを行った。薬局でもこの領域について正しい知識を修得し、患者の症状や副作用の聞き取りの際、充分配慮する必要性が示唆された。

3.成果報告

本年度の研修より、研修内容が実際の薬局薬剤師業務で役立った例、活用した事例などを受講生から報告(成果報告書)してもらうようにした。25事例の報告についてその抜粋を別記資料にまとめた。さらに写真やポスターなども数例報告されたが、これらの報告はホームページにも順次掲載していく。確実に本研修が現場の業務に活かされている事例は受講生にとって現場で活かしていくきっかけとなり、研修の有効性を示す貴重な資料である。今後さらに本報告書を収集し、研修内容にも活かしていく必要がある。

4.本年度研修の課題

  • 研修会場が桜山キャンパスの場合は駐車場や公共交通機関の便もよく好評であったが、薬学部キャンパスが会場の場合は、工事中でもあり、駐車場の確保や交通機関に不便との声が聞かれた。
  • 1年間の研修を連続して参加することはやはり実務を行っている薬剤師には大変な負担である。特に年度末になるほど毎回の受講生が減ってくる現象は、日程も含め考慮が必要。特に土曜日の出席率が低い傾向にある。
  • 医学部・看護学部が担当で行なう実習形式の研修は参加者も総じて多いが、臨床研究や倫理など直接業務に結び付きそうにないと演題から考えられる研修では参加者が少なくなる傾向があった。
  • 4時間の研修は、原則として2時間の講義、それを受けた2時間の実習・演習という形式で行なったが、実習・演習時間それに引き続く発表検討時間をさらに増やして欲しいという意見が多く見られた。また、事前に研修内容資料を配布し予習できると研修がより理解できるとの要望もあった。
  • 本研修は新しい薬局業務開拓のために、幅広く医療に関連する研修を試行しているが、今現在の薬局業務に役に立つ内容をさらに多く盛り込んで欲しいとの要望がアンケートからも多かった。
  • 総じて本研修に参加した薬剤師は意識は高く積極的に研修に臨んだが、薬剤師のレベルの差もあり、研修の修得度やSGDへの参加具合に受講生間で明らかに差がみられることも散見した
  • 臨床研究は、回数多くワークショップや講義も行ったが、やはり現場でそれを実施してもらえる機会は依然少ない。また発表内容も報告に留まり、学術的なレベルを確保できるものが少なかった。
  • 成果報告書もやはり意識の高い受講生からの報告に留まり、受講生全員からの報告には至らなかった。

5.来年度以降の本事業への提言

  • 本年度行った年間研修で研修コースの内容がほぼ固まってきたので、来年度以降もこの研修内容を基本に行い、事前の資料配布など含めさらに研修効果を高める努力をすること。講義と実習・演習の時間のバランスを再度見直し、知識・技能・態度の修得目標を明確にしてさらに受講生の学習効果に配慮すること。
  • 薬剤師の業務に直接役に立つ研修をさらに採り入れていく必要はあるが、本研修は今後チーム医療に薬剤師が参画していく地域でのリーダーの育成、薬局実務実習の指導者のレベルアップ、さらには新しい薬剤師職能の拡大を可能にする人材の育成が大きな目標であるので、現在の薬剤師業務にとらわれず、少人数の意識の高い薬剤師に対し、幅広く医療に関連する研修を行い、研修成果を確実に提示できるような研修を目指す事が望ましい。
  • 3年目を迎えるにあたり、ワークショップなどで出された臨床研究のプロダクツを学術発表さらに論文発表等に結び付けていくこと。
  • 今後、受講を修了した薬剤師とも連携して、アドバンスト研修、共同の学術活動などを通して目指すべき薬剤師像としてのアウトカムを共有し、その実現に大学は積極的に寄与すること。
  • 研修会場については薬学部キャンパスが工事中の期間は、桜山キャンパスなどでの研修を優先的に計画する。実施日については、現場薬剤師が時間をとりやすい日曜・祝日になるべく研修日を設定するなどの配慮が望ましい。
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