イオンチャネル

Research

1. イオンチャネルの分子薬理学

血漿・間質液・細胞内液等の体液ではNa+,K+,Ca2+,Mg2+,Cl-,HCO3-の イオン組成が極めて動的に保持されます。細胞膜上のイオンチャネルは特定のイオンを選択的に透過するタンパクであり,全ての細胞において膜内外のイオン環 境(濃度勾配)を整え,細胞生命維持や増殖あるいは細胞死の制御で中心的な役割を果します。また神経・筋細胞においてイオンチャネルは,その開閉によるイ オン流をもって一種のデジタル電気信号を生じさせ,例えば中枢神経活動や心拍動などの速い生体活動を可能にする極めて重要な分子です。

私たちは新規イオンチャネルの同定・クローニングおよび既知チャネル分子の生理機能と調節機構の解明(遺伝子操作マウスの利用を含め) を行ってきました。現在は,特に種類が多く臓器・組織毎にかなり特異的に発現しているK+チャネルを中心 に,チャネル複合体の特定疾患での機能変化・発現変化の解析,そのチャネルを標的とする創薬(リード化合物の探索)および作用機序解明を重点的に行ってい ます。イオンチャネルの場合,透過イオン流を電気信号として測定し,タンパク一分子の機能としてリアルタイムで解析することができます。

分泌・収縮・化学伝達物質遊離などの重要な細胞機能発現でのシグナル伝達ではCa2+濃 度上昇が特に重要なステップであり,幾重ものCa2+濃度調節機構が存在します。その調節機構の中心的分 子としてCa2+透過チャネルとCa2+濃度により活性 が制御されるイオンチャネルを挙げることができます。例えば,私たちはCa2+活性化K+チャ ネル分子機能解析を基に,その機能変化や遺伝子変異体の機能異常と高血圧・頻尿・癲癇など多くの疾患の関連を探求し,治療薬としてチャネル作用薬の創薬を 目指しています。求める薬理活性を有する化合物を幾つか発見し,積極的に製薬企業との連携研究も行っています。

2. 可視化による細胞分子機能解析

先進的可視化技術を駆使して,細胞機能をミリ秒の高速サンプリング画像解析することにより,全く新たな現象として解析することが可能と なります。例えば下図は膀胱平滑筋細胞で活動電位(中央)が生じている時の細胞内Ca2+イオン濃度分布 をレーザー共焦点蛍光顕微鏡で測定した画像を示しています。このような解析により平滑筋細胞の収縮機構の新たな分野が開拓され、病態時の変化の解析とあわせ て、その貴重な情報が新薬開発の応用研究に生かされています。さらに最近,全反射蛍光顕微鏡を利用して,生細胞内で機能している分子の挙動が一分子可視化 解析が可能になってきました。一分子ダイナミズム解析から新たな科学が創生されようとしています。チャネル分子機能解析や創薬科学への応用も待たれるところです。

膀胱平滑筋細胞における活動電位発生時の細胞内カルシウムイオン動態

3. イオンチャネル標的創薬のための新規 スクーリング系実用化

イオンチャネルは創薬標的分子として極めて重要ですが、その薬剤開発は大きく遅れています。 その理由の一つは高効率スクリーニング系が未発達なことにあります。私たちは、「遺伝子改変による1発の活動電位発生により細胞死を生じるイオンチャネル発現細胞の作成基本技術」 (下図)を独自に確立し、「スクリーニング用イオンチャネル発現細胞」を作製して、それを用いた創薬スクリーニング法を開発しました。これまでに電位依存性K+チャネル(hERG、Kv1.3や Kv1.5)、 2ポア型K+チャネル(TASK1やTASK3)、およびイオンチャネル型受容体(nAChRや5-HT3A)に関する細胞を樹立し、その有用性を評価しました。その結果、多種イオンチャネルへの対応性、 コストパフォーマンス、操作性において優れた高感度かつ高精度の「イオンチャネル標的創薬スクリーニング法」であることを確認しました。現在、疾患治療に有望なイオンチャネルを標的として、 本新技術を応用してシード化合物の網羅的探索を行っています。更に、アカデミア発の技術とリソースを基盤として構造活性相関や一部の安全性試験を含めた前臨床研究を展開し、 イオンチャネル標的創薬を実施する予定です。

スクリーニング用細胞概略

研究概要パンフレット(PDF;974kb)