一酸化窒素(NO)は、血管拡張や神経伝達、免疫応答などに関与する重要な生理活性分子ですが、反応性が高く不安定であるため、その作用を時空間的に制御することは困難です。そこで、光照射によってNO放出を制御できる光応答性NOドナーが開発されています。当研究室ではこれまでに、アンテナ部位の光励起によって光誘起電子移動(PeT)を起こし、NO放出部位からNOを放出するPeT駆動型NOドナーを開発してきました。本研究では、これらのNOドナーのさらなる高効率化を目的として、アンテナ部位であるローダミン骨格の構造活性相関(SAR)を系統的に検討しました。

ローダミンの3位および6位のアミノ基を環状アミンに置換してもNO放出量子収率(ΦNO)への影響は小さかった一方、10位の元素を置換するとNO放出効率が大きく変化しました。特に、セレン(Se)およびテルル(Te)を導入した化合物ではNO放出が大幅に増強され、テルル置換体であるNO-TeRは検討した化合物の中で最も高いΦNOを示しました。一方、リン置換体ではNO放出が認められませんでした。

さらに、ラットの大動脈を用いた試験では、光照射開始から最大弛緩に達するまでの時間がNORD-1と比較して5倍以上短縮され、極めて迅速な血管弛緩を誘導できることがわかりました。本研究から、PeT駆動型NOドナーでは、NO放出部位を変更することなくアンテナ部位の10位元素を改変することで、NO放出効率を向上できることが示されました。この成果は、薬剤投与量や光照射強度を最小限に抑えた、より安全で効果的な光薬理学治療や、生体深部でのNO制御に向けた次世代型ツールの開発に大きく貢献すると期待されます。
(2023年度博士卒 齋藤君、2021年度学士卒 北村さんによる研究)
[発表論文]
J. Med. Chem., 69, 12, 14761–14773 (2026).