研究概要

コロイド・高分子系の相挙動と新規材料の創成

 ナノ粒子・微粒子や、高分子・ゲルなどのソフトマテリアルは、医薬領域で重要であるほか、自己組織化や非平衡現象のモデル系として、また様々な素子や物理化学センサーの材料として有用です。
 直径100nm程度のコロイド微粒子が液体に分散した「コロイド分散系」を主な研究対象とし、微粒子の自己組織化による規則配列(結晶)構造や、高分子ゲルで固定したコロイド系を用いた新規材料・物理化学センサーの創成など、コロイド・高分子系の構造形成および材料応用に関する研究を行っています。

                             ゲルで固定したコロイド結晶


 平成25年12月2日~平成26年3月31日、文部科学省 「情報ひろば」で名古屋市立大学の企画として、研究室のコロイド結晶関係の展示を行いました。([資料1]ー[資料3])

【資料1】コロイド結晶の光学材料応用を目指して(PDF)

【資料2】ようこそコロイド結晶の世界へ!動画で見るコロイド結晶の原理と応用 基礎編(mp4)

【資料3】ようこそコロイド結晶の世界へ!動画で見るコロイド結晶の原理と応用 応用編(mp4)

【資料4】研究室紹介(新4A向け)(PDF)

 

研究課題

1.荷電コロイド系の相転移/相分離の研究
(Phase transition and phase separation of charged colloids)

  コロイド系は原子・分子系と同様に、相分離や結晶化などの相挙動を示します。コロイド粒子は光学顕微鏡によりその場・実時間観察が可能で、また粒子間相互作用の制御も容易です。このためコロイド系は相挙動のモデル系として有用で、超高圧・高温などの極端な環境に対応する条件を実験室で簡単に再現できます。電荷を持った荷電コロイド系を用いて、結晶化をはじめとする相転移や相分離の基礎研究を行っています。

                             コロイド結晶の模式図と顕微鏡像

2. コロイド単結晶化の研究
(Single crystal growth of charged colloids) 

  コロイド結晶の格子面間隔は通常100nmオーダーで、可視光をBragg回折するため、「フォトニック結晶」として光学材料応用が期待されています。コロイド結晶は一般にmmサイズ以下の微結晶が集合した多結晶体ですが、本研究室ではpH勾配や温度勾配を利用した新規な成長手法を開発し、共同研究者とともに、世界最大級であるcmサイズの大型・高品質のコロイド結晶の作成に成功しています。

                             光の選択反射(Bragg回折)

3. コロイド固定ゲルの材料応用
(Gelーimmobilization of colloids and their material applications) 

  コロイド結晶を高分子ゲルにより固定化した自立材料を作成し、次世代光学素子やセンサーへの応用を目指しています。これまでに、宇宙航空研究開発機構(JAXA)他との共同研究として、国際宇宙ステーションの微小重力環境での結晶成長実験を行っています。また、国内外の大学、公的機関や企業と共同で、光学素子や様々な物理化学センサーとしての実用化を目指した研究をすすめているほか、医薬領域への応用を目指したさまざまなゲルの特性を研究しています。

                             高分子ゲルで固定したコロイド結晶


4. 2次元コロイド結晶構造の作製
(Fabrication of two-dimensional colloidal crystal structures) 

  3次元(3D)荷電コロイド結晶の結晶格⼦の最下⾯の粒⼦を、粒⼦と反対電荷を持つ基板表⾯に静電吸着させると、粒⼦配置が固定された「2次元(2D)荷電コロイド結晶」を作製できます。このような構造はフォトニクスやセンシング等の分野における2Dパターン材料としても有⽤です。

                   基板上に作成した蛍光ポリスチレン粒子(直径500 nm)の2D結晶[文献1]


  コロイド結晶構造のうち、粒⼦がダイヤモンド中の炭素原⼦と同じ粒⼦配置をとった「ダイヤモンド格⼦」は、粒⼦と媒体の屈折率⽐が2以上の場合、あらゆる⽅向の光が結晶格⼦内に存在できない周波数帯(波⻑帯)である「完全フォトニックバンドギャップ(PBG)」を持つことが理論的に明らかになっています。PBGの周波数帯は格⼦の周期に依存し、紫外〜近⾚外光に対しては、サブミクロンサイズの粒⼦からなる格⼦が必要ですが、ダイヤモンド格⼦は充填率α が34%と低く、エントロピー的に不利であり、等⽅的な相互作⽤が働く1 成分のコロイド系では⾃発⽣成しないことが知られています。 そこで本研究では、FCC格⼦の(111)⾯とダイヤモンド格⼦のそれと対応する⾯が同じ粒⼦配置を取ることに着⽬しました。2D 荷電コロイド結晶上に粒⼦を積層し、粒⼦の正四⾯体型会合体が連続した構造を作製することで、ダイヤモンド格⼦の基本構造となる「単層ダイヤモンド格⼦」が得られると考えました。写真に示すようなダイヤモンド構造が作製できました[文献2]。現在はより大面積に作製することを検討しています。

                FCC構造とダイアモンド構造。粒子を三層積み上げることで、ダイヤモンド構造を作製。

                三層積み上げた構造を横から観察した顕微鏡像。粒子サイズは、1μm程度[文献2]

5. 金コロイド粒子を使ったプラズモニック材料応用
(Applications of plasmonic materials using gold colloid particles) 

  金コロイド粒子を使った基板上の2D結晶も、作製することができます。基板の修飾を工夫することで、より大面積な2D金コロイド結晶を作製することができるようになりました。この構造を使って、生体分子のセンシングにも利用できるプラズモニック材料の作製を検討しています。

               2種類の修飾法により得られた2D金コロイド結晶の構造(金微粒子の直径は、150 nm)


  1) SPR測定用基板
表面プラズモン共鳴(SPR)の共鳴波長は、金属を取り囲む誘電体の屈折率の変化によって変化します。特定の抗体を固定した金属基板上で、SPRを利用して抗原抗体反応を観察するための装置は市販されており、生物化学分野でセンサーとしてよく利用されています。しかし通常、複雑な光学系が必要となります。我々は、従来の反射分光法によるSPRセンシングを可能にするため、2D金コロイド結晶を用いたセンシング基板を作製し、その性能評価と応用を検討しています。金粒子では、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)が利用できるため、電場がより増強されます。これを周期構造にすることで、感度の向上が期待できます。また、基板の構造を、周期構造を有するLSPRに伝搬型表面プラズモンを組み合わせた、金属(Metal)-誘電体(Insulator)-金属のMIM構造は、Fano共鳴が生じ、更なる感度の向上が報告されています。これを利用して、単層で大面積の2D金コロイド結晶を持つMIM型の基板を作製しました[文献3]。

                      MIM構造の基板、LSPRとMIM構造によるFano共鳴の模式図


  さらに、基板を組み込んだ流路を作製して、基板上に、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーを交互に電気的に積層しました。積層ごとに、基板周囲の誘電率が増加するので、プラズモン共鳴波長が超波長側にシフトしました。このシフトが観察されなくなるまで、交互積層を続けた結果、基板から約50 nm程度離れたところまで検知できることが明らかになりました。同様の報告例はこれまでにもありましたが、我々のシフトはその2倍程度大きく、高い感度を持つことが明らかになりました。

  そのほか、生体物質を利用したいくつかの生体反応についても共鳴波長のシフトによる観察が可能であることを確認しています。現在、基板の構造などの最適化の検討を行っています。

  2) SERS測定用基板
我々の基板は、SPRのほか、表面増強ラマン散乱(SERS)用の測定基板としても有効です。ラマン散乱は、分子内振動を観察する物質の同定や定量に非常に有効な手法ですが、その散乱強度が非常に弱いため、測定には散乱を増強する基盤などが利用されます。金などの貴金属どうしの隙間などホットスポットと呼ばれる場所で、非常に増強されます。コロイド結晶は、その粒子間隔を制御することができるので、効率的にホットスポットを作製することができるため、SERS用基板としても応用が期待されます。

その他、過去に行ったプロジェクトは、以下の通りです。

・JAXA 「きぼう」利用テーマ 「レーザー光回折による微小重力下でのコロイド結晶の構造解析と粒子間相互作用の研究」に参加しています。
 ⇒宇宙ステーション・きぼう 広報・情報センター

・平成27年度 短時間微小重力実験(航空機実験)に採択されました。


・平成19年度 JSTイノベーションプラザ東海
育成研究課題
「高品質コロイド単結晶を用いた分光素子および超小型分光光度計の開発

・きぼう利用フォーラムにおける研究会
「コロイドマテリアル研究会~微粒子で光をデザインする~
国際宇宙ステーションにおける日本の実験棟「きぼう」における実験を通して、
新しい材料の創成を目指しています。