2-5) 松岡陽子
今回、私は南カリフォルニア大学での臨床薬学研修に参加しました。
 はじめの三日間は、アメリカにおける薬学教育、薬剤師の役割、ファーマシューティカルケアについての授業受け、またHIPPA Training (患者のプライバシー保護に関する規約)や、Case study として実際にある患者さんのカルテを見ながら、薬剤師が注目すべき点、処方の問題点などについてディスカッションしました。このような授業の他に、USC Health Science Campus周辺のNorris Cancer Hospital、University Hospital、USC Main Campusの見学もありました。
 Clerkshipでは南カリフォルニア大学の薬学部4年生の実務研修に同行させてもらい、実際に薬剤師がどのような業務をしているのか見学させてもらいました。
 Clerkshipの初日はDrug Information ( DI ) に行きました。そこでは医療従事者からの薬に関する質問に電話で応対していました。一日に40〜50件の問い合わせがあるそうです。すぐに答えられない場合は、文献やインターネットを使用して調べ、再度電話をかけなおして返答していました。新しい論文なども読んでおり、最新の情報を提供できるようにしていました。このDIは建物自体は小さいものでしたが、付近の病院に限らず、アメリカ全土、広くは世界中からの質問に答えられるようになっていることに驚きました。また外国の患者さんが持参する薬がどの薬と同じものなのかという質問が多かったのもアメリカならではだと感じました。午後はDIの先生と学生で、高血圧に対する最新の薬物治療指針、ライフスタイルの改善についてディスカッションが行われました。私たちにも先生から学生に対する質問と同様の質問がされましたが、英語が聞き取れなかったり、内容を忘れていたりしてなかなか答えられませんでした。聞き取れないところは、紙に書いてもらったりして、なんとかついていく状態でした。
 二日目はRANCHO LOS AMIGOS Rehabilitation Hospitalに連れて行ってもらいました。この日は主に外来見学しました。高血圧の患者さんの血圧を薬剤師が測定し、薬物投与量が適切であるかということを判断し、投与量を変更するところを見て、日本との違いを実感しました。空いた時間で、血圧測定も体験させてもらいました。また、ここでみた薬の容器は日本のものとは違い、薬袋はなく、プラスチックの瓶に薬が詰められており、その瓶に薬の名前、用法・用量を書いたシールがはってあるというものでした。USCの四年生も、患者さんのモニタリングをして、その結果と投与量の変更等をpharm.Dとディスカッションしてその判断が正しいかどうかを話し合っていました。そのような様子を見て、日本でいま行われている病院実習ではなかなかできないことだと感じました。また、この病院はメキシコ系の患者さんが多く、薬剤師の先生の中には、ポルトガル語を流暢に話す方もいらっしゃいました。こういうスキルもアメリカでは必要となると感じました。この病院には最終日にも行きましたが、そのときは入院患者さんがいる病棟での仕事を見学させてもらいました。抗凝固剤であるワルファリンを服用し始める患者さんに、その薬に添付されている服用上の注意などを示したビデオを見てもらった後、ベッドサイドで血中濃度測定を正しく行うための注意点や、副作用の初期症状などについて説明していました。ただ説明するだけでなく、その都度、患者さんが正しく理解しているか確認しながら話をしているところが印象的でした。このベッドサイドでの服薬指導も四年生だけで行っていたことに驚きました。充分に訓練を重ねていないとできないことだと思います。
 三日目はJWCH Institute Medical Clinicに行きました。ここは外来だけで、低所得者を対象としており無料で診察・治療が受けられます。主に高血圧、糖尿病、高脂血症の患者さんが多く、患者さんに二週間に一度予約をとってもらい薬剤師が血圧、血糖値等を測定し、薬物量を変更していました。
実際、血圧が目標値まで下がっていなかったため、投与量を増加させるというケースも見ました。その日に診た患者さんの情報(SOAP)はすべてその日のうちにパソコンに入力していました。
 四日目はHSCに隣接したUniversity HospitalでICUの見学、各階の病棟の施設、薬剤部の説明を受けました。この病院では高度な医療が受けられ、心疾患、移植等の患者さんが入院していました。各階にサテライトファーマシーとして、必要な薬、点滴などが常備されており、入院患者さんの一人ひとりに棚があり、そこにテクニシャンが一回分の薬をピッキングして入れておくシステムもありました。各階にサテライトファーマシーがあるのはICUなどの急を要する場所にとって重要だと感じました。ここでも薬剤師は患者さんの血中濃度などの検査値をもとに、投与量が適切あるか判断していました。移植を行っているということもあり、免疫抑制剤のTDMについて教わりました。
 日本の薬剤師との違いをこの二週間で勉強することができました。アメリカではピッキングはほとんどテクニシャンによって行われており、薬剤師がピッキングをするということはありません。また薬物の投与量、場合によっては薬物自体も薬剤師が変更することができます。日本では提案することしかできません。日本でもファーマシューティカルケアの理念、薬物治療において薬のスペシャリストとしてできることを責任もって取り組むということが重要になっていくと思うし、そうなるべきだと思います。そのためにも患者の薬物治療に専念できるような環境と信頼が必要だと感じました。
 今回の研修では臨床薬学についてだけでなく、学生と交流することで英語によるコミュニケーションの勉強になり有意義なものとなりました。これから薬剤師として働く上で今回の経験を生かしていきたいです。