2-1) 上田真之介
Clerkshipが始まる前の3日間ではキャンパス内の見学をした後、アメリカの薬学教育制度、特に薬剤師になるまでの流れと薬剤師となった後の卒後教育についてまず学びました。ここでは学生のうちに1500時間以上も臨床実習を受けなければならないことや卒後教育において講習はもちろんだが、簡単なものではあるけれども試験があることなどを知り、アメリカという国では本当に薬学教育に非常に大きな重みがおかれているのだと改めて感じました。またHIPPAと呼ばれる患者さんのプライバシーを守る法律についても学び、さらには薬剤師の具体的な職務についても学びました。
その後、具体的にCase Studyを行いました。
 5日間あったClerkshipでは、University Hospital、USC Ambulatory Care、LA County Hospital、Rancho Los Amigos、Drug Information Centerでの研修に順に参加しました。
初日のUniversity Hospitalでは病院のベースメントにある調剤部に行きました。調剤部にある多くの薬がシートではなくボトルに入っている他は、見た目は日本とあまり変わらない印象を受けました。しかしながら、そこで行われている薬剤師の業務は日本とは異なり、患者の病態や治療方法のチェックなどに特化されており、調剤は全く行われず、代わりにテクニッシャンの手によって行われていました。ここでは4年次の学生について、患者さんが現在処方されている薬をチェックしている様子を見学させてもらい、またJCAHOというHIPPAに基づく患者さんの安全を守る組織のお話を聞きました。その後病院内を見学しました。病棟は階ごとに専門が分かれており、それぞれにサテライトファーマシーが設置されていました。
 次の研修の場であったUSC Ambulatory Careではワルファリンを服用している外来患者さんのケアを行う場に行き、実際に薬剤師や4年次の学生が患者さんに直接ケアしている様子を見学しました。今日来る予定の患者さんの情報をカルテより得、必要な情報を整理し、やってきた患者さんの訴えを聞き
メディケーションについての説明をし、そしてキットを用いてPTやINR値を測定し、その評価と指導を行う。その一連の流れは私の知っている薬剤師の仕事ではなく、さながら内科医が患者さんを診察する光景であり、知識としては事前に知ってはいたものの、それでも非常に強い衝撃を受けました。その後、アルツハイマー病についてのディスカッションを聞きました。
 LA County Hospitalは郡立の低所得者の患者を受け入れる病院で、循環器科病棟に行きました。施設は古く、衛生面もあまり良いとは言えず、University Hospitalとは対照的な印象を受けました。ここでは病棟回診を見学しました。ここでの回診は学生のための教育という側面を持つようで、患者の症状やこれからの方針などを患者はもちろんだが、回診についている学生にも説明され、また至るところでディスカッションが行われており、時折ここが病棟だということを忘れてしまうくらいであった。このような実習を行っているからこそ、卒業後に即戦力となるほどの能力も身につくのだろうと思うと同時に、これは日本では絶対に真似出来ないであろうとも思いました。
 Rancho Los AmigosはDowneyというところにあるリハビリテーションセンターで、特に足を切断するまでに至ってしまった糖尿病患者が多く集まるところということであった。まず4年次の学生について、施設内を簡単に見学しました。廊下が広く、全体的に閑散としており、外にはバスケットコートなどもありました。
続いてこの4年次の学生と抗凝固薬や抗菌薬についてや薬剤師の対応についてディスカッションをしました。処方が間違っていた場合どうするかという話になったとき、私たちの「ドクターにその旨を伝える」という答えに対し、「アメリカでは日本とは異なり特定の薬に関しては薬剤師の責任のもとにメディケーションできる」と語った彼の様子から、彼の薬剤師の職能に対する誇りと自負を非常に強く感じました。
 Drug Information Centerでは薬剤師が病院で発生する問題について電話で回答している姿を実際に見ました。またその後disease managementの概念を学び、特にそのうちの一つの柱であるstandardize treatmentについて学びました。これは日本でいうならクリティカルパスに相当するもので
肺炎とうっ血性心不全の場合のものについて具体的に学びました。
 今回の研修を通して一番に感じたのは、薬剤師になる前の学生がその時点で既に薬剤師として必要な考え方、知識、技術、姿勢を十分に理解し、またその職能に対する誇りと責任を強く持っていることでした。このようなことはよく言われるように薬学教育の違いに由来するものであるのだろうと私も思いましたが、それだけで一概に説明できるものだろうかとも思いました。二週間という短い研修でしたが、他にも本当に様々なことを私に考えさせるきっかけを与えるものとなり、非常に充実したものでした。