2-3) 鴨東美絵
 私は、アメリカの薬学教育、また薬剤師制度について学びたいと思い今回のUSCの臨床薬剤研修に参加することにした。
2週間の研修のはじめは大学病院や周辺の病院の見学であった。狭い範囲に大学病院、county hospital、children and women’ s hospital、検死センターなどが集中しており、大都市ロサンゼルスの医療の中心という印象を受けた。次の日は USCの本学にある USC Pharmacyを訪れた。 OTCも備えた本格的な調剤薬局であり、コレステロール値、血糖値、骨密度、血圧などが有料で測定でき薬剤師と相談することができるという。アメリカには日本のような皆保険制度なく、家族単位で民間の保険に加入している。保険の種類により受けられる医療の質も変わってくるので、アメリカではセルフメディケーションの意識が高い。 OTCの種類が豊富なこと、簡単な検査なら薬局で済ませられることからもこのことがうかがえた。午後からは、薬学教育についての講義を受けた。アメリカの薬剤師制度は州ごとに異なるが、一般に 2-4年の準教育課程修了後、4年間の薬学専門教育を受けてはじめて薬剤師試験を受験できる。専門教育では医療薬学が重要視され、1500時間以上の卒前臨床実習 (Clerkships)が義務化されている。そして薬剤師免許所得後も2年ごとに一定単位以上の講義を受けることが義務付けられており、これを受けないと薬剤師免許は失効してしまう。日本の薬学教育では最近ようやく医療薬学に重点が置かれるようになってきたが、臨床薬学や終身薬剤師制度も見直すべきではないかと感じた。その後、 HIPPAという患者のプライバシー保護に関する授業を受けClerkshipに臨んだ。

 はじめ3日間はUSC大学病院に、最後の日は county hospitalでClerkshipを行なう学生について研修を行なった。USCの大学病院は、眼科病棟や癌病棟、肝・腎移植病棟など専門に別れており、どれもホテルのように洗練されていた。
調剤部は病院の地下にあり主たる調剤を行ない、さらに各階にサテライトファーマシーという小さな調剤室があり、急な処方の調剤や地下の調剤部から送られてきた薬を一時保管しておくのに用いられている。
しかし、実際に調剤するのはテクニシャンであり薬剤師ではない。薬剤師はもっぱら患者の病態を把握し薬学的知識から処方を監査する業務に特化している。学生たちはまず自分が担当する患者の朝の検査結果データをパソコンで確認した後、患者の所に行ってカルテを読み患者の病態の変化を把握する。
そして処方の変更点などについて各自勉強する。そして、担当教授と処方について議論し理解を深める。医学部の教授と医学生とともに患者回診にも同行しておりグループ医療の取り組みがうかがえた。
また、学生だけのゼミも病院で行なわれており、当番の学生がペインクリニックにおける薬物処方について文献紹介した後、活発な意見交換が行なわれていた。
 最後に行った County hospitalは郡立病院といって民間の医療保険に加入できない主に低所得者層の患者を無料で受け入れる病院である。重厚で歴史を感じさせる建物であるが、病院内はあまり衛生的ではなく特有のにおいが漂っていた。病院に入るには医療関係者以外は全員手荷物チェックが行なわれており、ロサンゼルスの治安の悪化を感じた。ここでも医師の回診に薬学部の学生たちが同行し、病態と薬物治療について勉強していた。
研修に参加してみてアメリカの学生たちの勉強意欲と知識量に大変驚かされた。臨床重視の薬学教育は即戦力として使える薬剤師養成という印象を強く受けた。
また、アメリカの医療制度や薬剤師制度については、免許更新制度など日本が見習うべき所もあるが、医療保険制度など日本の方が優れているのではないかと思う点もあった。英語力不足で理解できなかったこともたくさんあったが、事前に行なわれた勉強会で学んだことがとても役に立った。
 大学院では毎日実験で臨床薬学を学ぶことは、なかなか出来ないのでとても良い経験になった。将来
この研修で学んだことを活かせるようにしたいと思う。