2-6) 丹羽里実
 三日間のClerkshipのうち、前半の二日はUSC hospitalだった。USC hospital内はからりとしていた。日本のようなジメッとした空気は流れていい。私たちの集合時間は大学に8:30。アメリカでは薬学教育として、長期の病院実習を課している。私たちは、邪魔にならないよう影の様にUSCの4年生についてまわった。まずは、担当患者のカルテを見て、夜中のうちに投与された薬物のチェック。その後、午後のディスカッションのために、担当患者の適正投与量計算を大きなホワイトボードに書いていく。日本の病院で、あのように複雑な投与計算をしている薬剤師の姿を私は見たことが無い。でも、ここでは毎日の仕事のようだった。
 午後、Pharm.D.の先生が登場。ディスカッションが始まった。約二時間、先輩の先生方も含め、かなり細かい指摘や質問、訂正が行われた。これが、本来の監査の姿なのかもしれない。USCの4年生の一日はこうして終わった。あまりに早い。ベットサイドに行かないのか?実は朝7時ごろからPharm.D.の先生達が病棟をまわっているのだ。そのため、終わるのも早い。ということだった。County hospitalはとても騒がしい感じで、衛生的にいったらUSC hospitalに比べ落ちてしまう。それもそのはず。この病院では、患者から医療費を取っていない。ほとんどの患者が不労者なのだ。多くが薬物中毒者で、ナイフで刺されたり
銃で撃たれたりして運ばれてきているということだった。アメリカ全体の病院の質という意味でも、数年前の医療体制であり、けして進んだ病院とはいえない。という説明もあった。私たちは“アメリカの医療は進んでいる”と多く聞かされ、教育を受けてきたが、アメリカの全てで進んだ医療をしているわけではなく、今回お世話になったcounty hospitalのような病院はまだまだアメリカ全体のあちこちにあるのだ。この日、私がついたUSCの4年生の担当患者はoffだった。さらにもう一人の患者に至っては、その日の明け方に亡くなっていた。そのため、午後のディスカッションでもPharm.D.の先生に「off! dead!!」の二言言われて終わり
だった。もちろん学生ではない先生方が担当している患者についてはディスカッションがされた。このとき驚いたことは薬剤師はもちろんナース・栄養士にも大きな権限があって、というよりも、尊重しあって意見交換されている点であった。
 日本でこんなにも、一人の患者について多くの医療人が治療に関し討論する機会はないだろう。日本ではテクニシャンが存在しておらず、調剤に追われて時間がない。ということももちろんだが、根底となる薬学の知識が足りていないからこそ、医療において他分野の医療人からの信頼が確立していないように感じた。残念ながら今回、ベットサイドでの病棟活動を見ることを強く要望し、多くのスタッフが動いてくれたにもかかわらず、USCサイドとの都合があわず見るチャンスは得られなかった。しかし、その他の業務については十分とはいえないながら、濃度の濃い時間を過ごさせてもらったように思う。改めて、このプログラムに関与した多くの方々に感謝したい気持ちだ。