1) はじめに <アメリカにおける医療の背景>
 現在、薬剤師を取り巻く状況について、日本とアメリカでは大きく挙げて2つの点で異なっている。1つは医療保険制度である。アメリカは国民皆保険ではないため、メディケア、メディエイド以外の多くのアメリカ居住者はHMO(Health Maintenance Organization)、PPO(Preferred Provider Organization)等の任意保険に加入する必要がある。こうしたシステムは患者が自由に医師を選べ
ず、またその医師も自由な診療を行なうことができず、保険会社の定めたガイドラインに従わなければならないといったデメリットを抱えながらも、医療費の削減には一応の成果を上げている。他にも入院日数を減らすために集中的な治療を行なうことのできる医療スタッフの編成、いわゆるチーム医療が発達していたり、調剤を専門とするテクニシャンが多く、薬剤師の職務は患者のケアや医師への薬学的アドバイスに
ウェイトが置かれている。2つ目は薬剤師教育である。アメリカにおける薬剤師教育は日本よりも多くの時間をかけており4年の教養を卒業後、薬学部で臨床実習(Pharm.D.の場合は3年)を含んだ4年の
カリキュラムを修了し薬剤師になる事ができる。臨床薬剤師になるためにはさらに1年間、レジデンシーとして働く必要がある。この教育システムは長期間医療現場で実習を行なう事で薬学生が高度な知識、技術を身に付けることができるメリットがあるが、多くの学費が必要であったり、Pharm.D.取得学生のほとんどが実務薬剤師になってしまうなど進路が制限されるといった面も持ち合わせている。このように状況は異なっているが、患者により良い医療を提供しようという目標は日本もアメリカも同じである。日本で医療費削減やチーム医療の導入、医療ミス、薬剤師の地位の向上が叫ばれている今、これらを一通り経験したアメリカのシステムは大変参考になるが、そのシステムにも、メリットとデメリットがあることを認識し、より良い医療現場を作っていくことが医療人としての薬剤師の使命であると考える。