1) はじめに <アメリカにおける医療の背景>
アメリカにおける医療の風景  アメリカでは1960年代後半に臨床薬学の必要性が叫ばれ、薬剤師の教育内 容および業務内容が大きく変化
し、薬剤師が臨床現場で医療チームの一員として責任をもって医師の処方支援や、患者への説明等に積極的に関わる事が始められ現在のように、医療で必要な職種として高い評価を受けるようになった。我が国における薬学教育はご存知の通り高校卒業後、薬学部に入学し四年間の教育を経て国家試験合格して薬剤師となる事ができる。一方アメリカでは二年間もしくは四年間教養を勉強した後、薬学部において臨床実習を含んだ四年間のカリキュラムを修了すると薬剤師になることができる。臨床薬剤師となるためにはさらに一年間安い給料をもらいながらレジデンシーとして働かなければならない。また日本と違い、アメリカでは社会保険制度が発達していない。主要先進国の中で医療費の占めるGDP比が最大(約14%150兆円)であるアメリカでは、医療保険への加入は生活する人にとって必須である。日本では政府が公的に負担する国民健康保険や社会保険などが存在するが、アメリカでは医療費はほぼ個人負担となっている。 メディケアやメディケイドはそれぞれ高齢者、障害者・低所得者が対象の健康保険である。そのため、アメリカに居住する多くの人は個人で保険に加入している。アメリカには主に次の四つの医療保険がある。 HMO(Health Maintenance Organization)、PPO(Preferred Provider Organization)、POS(Point of Organization)、インデムニティー(Indemnity Plan)である。これらは 各々メリットやデメリットがあり、保険に入ろうとする人はそれを考えた上で選択している。
  こうしたアメリカの医療費増大を抑制する為に導入されたのが、保険会社が医師と患者の間に入り保険会社が医療行為に無駄がないか医師を厳しく管理するところが最大の特徴であるマネージド・ケアシステムである。患者は基本的には保険会社が契約する医師にしか診察してもらえないが、保険料は低く抑えられる。
 また1983年エール大学により考案された高齢者向けの公的医療保険におけるDRG/PPS (疾患別定額支払い制)も医療費抑制策の一つである。まず、332の病院と140万件の症例をもとに「疾患別の治療費算出法」を作成し、その後も繰り返し改良が加えられ今では高齢者に限らず、若年層向けの民間の保険にも適用されている。DRG/PPSでは病気ごとにその医療費の上限が決まっているので、治療すればするほど 収入が増加する出来高払い制とは異なり、病院としては医療の無駄を省こうとする。入院日数の短縮は、医療費の抑制に即座に結びつくため外科の日帰り手術が拡がり、ほとんどの癌患者が通院治療をするが入院に頼らない医療が一般化した。これを可能にしたのが、入院する重症患者を早期退院に向けて集中治療を行える医療スタッフの多さと治療に対する意識の高さ、高度な医療技術である。
 こういった質の高い医療現場での実習がアメリカの薬学生を高度な知識と技術を兼備えた薬剤師へと育てていくのであろう。医療現場においては、日本よりも何倍も 進んだチーム医療を行っている。患者1人に対し、医師・薬剤師・看護師が一人ずつ つき、チームでケアし患者を回復へと導く薬剤による医療過誤を防ぐためバーコードを利用したり、調剤を専門とするテクニシャンが調剤をし、それを薬剤師が監査するというシステムになっている。医療過誤を防ぐことも患者に信頼される薬剤師としての使命である。