研究・技術ジャーナル
シトクロムP450配位構造モデル型SR錯体類を用いた、チオレート軸配位子の効果の解明を目指した研究
文責:白川 慶典 [掲載日:2011年7月4日]
目的
シトクロムP450の触媒機構の解明のため、当研究室ではP450と同様のヘム-チオレート構造を持つ合成ヘムチオレート錯体(SR錯体)を開発している。この錯体を基にして得た各種化学的・分光学的基礎知見をP450へフィードバックし、医学・薬学領域を中心に社会に役立てることを目的としている。
概要
シトクロムP450は生体内において多様な触媒活性を示すヘム酵素である。その触媒機構の解明は錯体化学、生体機能解明、医薬品開発等の観点から意義深く、重要な課題となっている。
当研究室では、P450と同様の配位構造であるヘム‐チオレート構造を持ちながら他に類を見ない高い安定性を有する合成ヘム‐チオレート錯体であるSR錯体や、チオレートへのNH・・・S水素結合が存在するSR-HB(水素結合型SR錯体)を開発し、これらを用いて軸配位子チオレートにおけるNH・・・S水素結合が触媒反応の反応性に対して重要な役割を果たすことを示唆する結果を得ている。
既に当研究室では、ヘム‐チオレート錯体のP450類似の酸化反応において、NH・・・S水素結合がFeIII/FeIV電位の予想外の低電位シフトを引き起こすことを報告している。しかしこれは自然界のP450がNH-S水素結合を有していることやそれにより高原子価生成が容易になり触媒活性を向上させる役割を担っているとすれば、それは理にかなっているものと考えられる。
この結果を踏まえ、現在はNH・・・S水素結合がヘム-チオレート錯体の酸化還元特性に及ぼす影響についてより詳細な検討を加え、さらにチオレート近傍の立体的要因、電子的要因が酸化還元特性に及ぼす顕著な影響も合わせて検討している。
今後の展望
現在、チオレート近傍の立体的要因、電子的要因について研究活動を行っており、その結果が出次第、次なる要因(錯体のポルフィリン環の歪み等)に視野を広げていきたいと考えている。
研究者プロフィール
白川 慶典
- 平成19年
- 群馬県立高崎高校卒
- 平成23年
- 名古屋市立大学薬学部卒