研究・技術ジャーナル
γセクレターゼ阻害剤および作用機構探索に用いる分子の開発
文責:今村 優希 [掲載日:2011年7月4日]
目的
アルツハイマー病の治療薬として期待されるγセクレターゼ阻害剤を開発するとともに、いまだ明らかとなっていない、γセクレターゼの詳細な作用機構の解明を目指す。
概要
アルツハイマー病は高齢者の痴呆で頻度の高い疾患であり、高齢化が進む現在患者数は増え続けている。γセクレターゼは、アルツハイマー病の発症に深く関与すると考えられているアミロイドβの切り出しを行う酵素である。そのため、ガンマセクレターゼ阻害剤は、アミロイドβの産生を抑制し、アルツハイマー病治療薬となると期待されている。
また、γセクレターゼは疎水的な環境で加水分解を行うという特異な酵素である。そして、その作用機構はいまだ明らかになっていない点が多い。そのため、新規のγセクレターゼ阻害剤を開発し、ケミカルバイオロジー的手法を用いて作用機構の解明を目指している。
γセクレターゼは、αヘリックスをとるペプチドを認識していることが知られている。そのため、αヘリックスと類似したヘリックスをとるものが阻害剤となりうると考え、βペプチド(βアミノ酸のオリゴマー)を用いることとした。βペプチドを用いる利点は通常のペプチドと比較し1) プロテアーゼに分解されにくい、2) 強固なヘリックスをとる点である。
これまでに、(S, S)-2-aminocyclopentanecarboxylic acid(ACPC)からなるオリゴマーが強いγセクレターゼ阻害活性を示すことを明らかにした。
また、阻害活性を示した化合物を誘導化し、光親和性プローブを開発した。光親和性プローブとは、光照射することで近傍の分子をラベル化し、化合物の作用部位を同定する目的で用いられる。我々が開発した阻害剤はγセクレターゼの活性中心の存在するプレセニリンがラベル化され、γセクレターゼの基質結合部位に作用することを明らかにした。
今後の展望
βペプチドの一部に官能基を導入した誘導体を合成し、その阻害活性の違いによりγセクレターゼの基質認識機構を明らかにする。
研究者プロフィール
今村 優希
- 2004年
- 名古屋市立大学薬学部薬学科 入学
- 2008年
- 名古屋市立大学大学院薬学研究科博士前期課程 入学
- 2010年
- 名古屋市立大学大学院薬学研究科博士後期課程 入学
特別研究員(DC1)