研究活動

研究概要

「精密有機反応学」は生体に関連した化学研究領域です。

当教室の研究目的とは?

化学の持つ面白さ、「力」の大きさは、この世界に今までになかった新しい分子を自らの手で生み出していく豊かな創造性につながるところが大きい。研究者がよく考えアイデアを込めて合理的に設計・合成した分子が、生命科学の進展、医療に大きく寄与する、あるいは化学をさらに深めることに貢献するものとなれば優れた分子の建築家(創造者)となる。当分野では、化学、生命科学の分野にインパクトを与える優れた新機能性分子を一人一人がそれぞれ設計し実際に合成して用い役立てていくことを目指している。

目標としている機能性分子としては、(1)医薬機能分子、(2)酵素機能性分子、(3)生体機能探索に有用なセンサー機能分子、(4)合成化学的に有用な高機能触媒分子、などである。

医薬機能分子については、標的となるタンパク質(酵素、受容体等)、核酸あるいは低分子量生体分子の豊富な構造情報に基づいて、化学的思考、手法によりそれと親和性の高い分子をデザインすることができる。したがっていわば知の結晶としての医薬リード化合物の創製を目指す。酵素の阻害剤開発においては合成した化合物のヒト酵素での活性検定が実用に向けて必要と考え、発現系によってヒト酵素を調製し用いている。

一方ではそれを生み出すための新しい方法論として化学平衡を利用し自動的に標的分子に対して親和性の高い分子を形成させる「分子進化的な合成化学」を提唱していたが(最近ではdynamic combinatorial chemistryという一分野となっている)本研究を開始している。
また、酵素という自然の生んだ洗練された触媒を手本にして強力な触媒分子や生体を治療する新機能分子(酵素機能分子)を創製することを考えている。酵素に発想を得、強力な反応性に重点を置いて追求し、従来知られていなかった反応を効率よく進行させる触媒系を創製している。また特に一つの分子に反応をより効率良く進めるための反応補助基を複数導入することにより相乗的に機能を高めることができると考えており、それによりいわば優秀な「分子ロボット」を設計合成する。たとえば一つの酸化機能分子は、特定の分子を認識する能力と触媒機能を併せ持ちその分子のみを選択的に酸化する。活性酸素消去分子は老化を防ぐ医薬のリードとなるはずである。

さらに生体という内宇宙にまだ数多くある未知の仕組みを調べるために、その構造を単純化(捨象)した優れた構造・機能モデルや、ポストゲノムを見据え生命科学に大きな寄与が期待できる生体機能探索を行うセンサー分子等を設計、構築する。前者ではヘム酵素モデル研究を行っており、一方酵素の活性中心という特異な反応場にいかなる要素が重要かについて新たな視点で研究も進めている。後者では重要な生体分子、官能基、酵素活性の可視化に有用な機能分子の開発を行っている。以上これらは生物のみを扱うだけでは解らなかった生命の謎を解き明かすために大いに役立つと期待できる。

分子を設計合成する際にはその実現のために合成化学の力や反応化学の考え方を身につける必要があり、実践的に研究の過程で会得できるよう教育にも力を入れている。当分野は平成12年10月にスタートし、樋口恒彦教授、梅澤直樹准教授、加藤信樹助教のスタッフ3名および14名の学生で意欲的に研究・教育を進めている。このような研究に興味を持ち取り組んでいく意欲ある学生を歓迎します。

主な研究テーマについて

  • 酵素と酸素モデルの化学
  • 生物機能解明に有用な機能性分子の開発と応用
  • 医薬リード化合物の合理的設計と合成・機能評価、創薬新手法の開発
  • 新概念に基づく機能性分子の開発
1.ヘム酵素の特徴的モデル分子の開発と応用展開
酵素シトクロムP450の精密な化学モデルを開発

薬物代謝酵素シトクロムP450の構造と反応性の未解明な部分の解明へ活用

酵素シトクロムP450の精密な化学モデルを開発

有害な活性酸素種を無毒化する触媒分子

より高度な機能を目指し、酸素毒性からの細胞の防御に効果的なものを作る細胞系でのアッセイ

有害な活性酸素種を無毒化する触媒分子

強力で効率の高い酸化反応系

医薬品代謝物の一段階合成や、酸化によるライブラリー(医薬資源群)構築に用いることのできる、医薬開発に有用なツールとして開発を進めている

強力で効率の高い酸化反応系

生理活性ペプチドの一般的ケージド化

光による活性体への変換機能を持つ

ペプチド導入ポルフィリン

ポルフィリン及びその金属錯体のペプチドによる機能化

生理活性天然物の合成
可視光で駆動する回転分子の開発

可視光をエネルギー源とする「分子風車」

強力で効率の高い酸化反応系

2. 化学進化的合成化学

~標的が何であっても親和性分子を容易にする~

従来の創薬手法と異なり、どのような創薬ターゲット分子に対しても、同様のやり方で親和性の高い(薬効の高い)分子を合成していく新手法。化学平衡反応を利用して、熱力学的に最も安定な分子に経時的に導くため、化学進化的合成化学と呼んでいる。アルツハイマー病の主因と考えられているアミロイドβペプチドの凝集抑制を行う、治療薬につながる分子の開発等を本手法により行っている。


新しい分子設計による抗マラリア薬も開発

3. γセクレターゼ阻害剤の開発

γセクレターゼは、アルツハイマー病脳に蓄積するAβ産生にかかわる酵素で、アルツハイマー病の重要な創薬標的分子である。当研究室では、安定なヘリックス構造をとるβペプチドフォルダマーが、 γセクレターゼの強力な阻害剤となることを見出した。 Aβペプチドの産生のみを特異的に抑制できる、基質特異的γセクレターゼ阻害剤の開発を目指して研究を進めている(東京大学大学院薬学系研究科臨床薬学教室(岩坪威教授、富田泰輔准教授)との共同研究)。

アミロイドβを切り出すγセクレターゼの強力な阻害剤としてのフォルダマー
アミロイドβを切り出すγセクレターゼの強力な阻害剤としてのフォルダマー


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