研究内容

 天然有機化合物は特異な構造様式を持ち多彩な官能基群を含んでいることから、既存の反応や合成手法の実用性を評価するための格好の機会を与えてくれるのはもちろんのこと、新たな合成戦術や方法論を産み出す場も提供してくれます。私たちは、利用実績が乏しいために適用範囲が明確でない反応を積極的に活用して新たな骨格構築法としての可能性を提示する一方で、必要に応じて新たな合成手法を開発しながら全合成研究を進めています。

1.スピロイミン構造を持つ海洋産天然物の全合成
 ピンナトキシン類はタイラギによる食中毒の原因物質と考えられており、カルシウムチャネル活性化作用を持つことが知られています。私たちは、二重ヘミケタール形成/分子内ヘテロMichael連続型反応による新規ジスピロケタール構築法を開発して適用すると共に、シクロヘキセン環、炭素27員環の構築にそれぞれエキソ選択的なDiels−Alder反応、Ru触媒を用いたマクロ環化異性化反応を利用することでピンナトキシンAの全合成を達成しました。
 現在、アセチルコリン受容体に作用するスピロリド類の合成を進めています。


ピンナトキシンAの全合成ルート

2.ポリガロリド類の全合成と生合成経路に関する考察
 ポリガロリド類は中国南部で抗肝炎薬および強壮薬として使用されている生薬から単離・構造決定された化合物群で、他に例を見ない構造様式を持っています。私たちは、カルボニルイリドの分子内1,3-双極付加環化反応を鍵段階として全合成を達成しました。本化合物群は、フルクトースから生じるオキシピリリウムイオンとイソプレンユニットの[5+2]付加環化反応を経て生合成されているものと推測されますが、本反応ではエナンチオ選択性がほとんど発現していないことが明らかになりました。


ポリガロリド類の全合成ルート

3.抗腫瘍性サポニン類の合成研究
 シラシロシド類は、中国で生薬として使用されてきたユリ科植物から単離・構造決定され、数種のがん細胞に対する強い殺細胞活性および腫瘍マウスに対する延命効果が見出されたサポニンです。糖鎖部の合成は既に完了しており、全合成に向けて現在アグリコン部の合成を進めています。


シラシロシドE-1の構造


名古屋市立大学大学院薬学研究科 薬品合成化学分野

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